森林チームより (2012年5月)

ソバの花に訪れるニホンミツバチと畑のまわりの森には関係があるの?

皆さんは、お蕎麦(そば)を食べますか。そばは穀物であるソバの実を加工した食品です。盛りそば、ざるそば、かけそばなどの麺類として日本で食べられているだけでなく、そば粉入りのクレープ(ガレット)などとしてフランスでも食べられています。

それでは、ソバ(Fagopyrum esculentum)の花を見たことはありますか。ソバは、茎の先端に白やピンクの花をたくさんつけます。これらの花が実になるためには、雄しべから雌しべに花粉が運ばれることが必要です。ソバの花は、雌しべが雄しべよりも長いタイプ(長花柱花)と、雌しべが雄しべより短いタイプ(短花柱花)の2つの花タイプがありますが、同じタイプの花同士では、ソバの花は実になることができません。長花柱花が実になるためには短花柱花の花粉、また、短花柱花が実になるためには長花柱花の花粉による受精が必要です。さらに、長花柱花と短花柱花の花を咲かせる株は完全に分かれており、ひとつの株に両タイプの花が咲くということもありません。これら異なった花タイプ間の花粉のやり取りは、昆虫によって行われています。花に訪れるハチやハエやコウチュウの仲間などの昆虫が体に花粉を付着させ、花の間を行き来することによってなりたちます。つまり、ソバは昆虫によって花粉を雄しべから雌しべに運んでもらわなければ花が実になりません。


ソバの花を訪れるミツバチ


ソバの花に訪れる多くの昆虫はどんな場所に生息しているのでしょうか。畑には餌となる花が一年中咲いているわけではありませんし、隠れ家となる巣場所もそう多くはありません。それでは、ソバの花に来る昆虫は、いったいどこに生息しているのでしょうか。実は、こういった昆虫の多くは、餌場所や巣場所として程度の差はあっても畑近くの森や草原に依存していると考えられます。つまり、ソバ畑の花に訪れる昆虫が森や草原に生息しているなら、森や草原に近い畑では昆虫がたくさんいるでしょうから、ソバは花粉をより効率よく運んでもらえることになるでしょう。逆に、森や草原から遠い畑では、花に訪れる昆虫が少ないでしょうから、花粉がそれほど効率よく運ばれてはいないでしょう。また、畑の近くに森や草原があったとしても、生えている木や草の種類が異なっているとしたら、ソバの花に訪れる昆虫の多さや、花粉の運ばれ具合も異なっているかもしれません。

こうした予測を確かめるため、茨城県常陸太田市(旧金砂郷町)で、県の奨励品種である「常陸秋そば」を作っている農家さんの協力を得て、17ヶ所の畑で調査を行いました。調べたそれぞれの畑のまわりには、ナラ類などの広葉樹や植林されたスギやヒノキの針葉樹の森がさまざまな面積で広がっていました。調査は、ソバの畑に来たニホンミツバチを採集し、その数を記録する方法で行いました。ニホンミツバチはソバの花を訪れる主要な昆虫の一種であり、また、樹木の洞などに巣を作ることが知られています。


ソバ畑

データをもとに、それぞれの畑においてニホンミツバチが訪花していた数を、畑のまわりがどういった森にどの程度囲まれているかで分析してみました。すると、畑がスギやヒノキの森にたくさん囲まれても少ししか囲まれていなくても、花に訪れたニホンミツバチの数は変わりませんでした。けれども、畑のまわりが広葉樹の森にたくさん囲まれているほど、花に訪れたニホンミツバチの数は増えました。この結果からは、ソバ花に訪れるニホンミツバチの数が畑のまわりにある森の種類によって影響されているということがわかります。また別の調査では、ニホンミツバチなどの昆虫が花に訪れる数が増えるほど、ソバが受粉して実をつける効率が高いことがわかっています。すなわち、畑のまわりの森の様子が、ソバの実がどれだけ採れるかに影響を与えていると言えるでしょう。このようなことから、今回の調査結果は、畑の内側の管理だけではなく、畑のまわりの環境をどう管理するかといったこともソバ栽培には大切なことを示しています。

森や草地などの半自然、もしくは自然植生からなる自然生態系は、多様で豊かな生物を支えています。それら生物が人間の生活に恩恵(生態系サービス)をもたらすことがあります。今回ご紹介したような作物の花粉媒介は、自然生態系に生息する昆虫による生態系サービスの一つ(送粉サービス)です。本プロジェクトでは、私たちがこれからも自然の恵みを受け続けていくために、生態系サービスに与えるさまざまな影響を科学的に確かめながら、人間活動が生態系サービスに与える負の影響を低める施策を提案していきたいと考えています。

文責 滝 久智 森林総合研究所 森林昆虫研究領域) 

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