森林チームより (2013年2月)

枯死木を利用する生き物に人間の活動が及ぼす影響

森林は地球の陸地部分の3割を覆い、日本に限ると国土の7割を森林が占めます。森林を人との関わりという視点からみてみると、人間が木を伐採し、別の樹種に植え替えるなどして形成された人工林のように人為活動の影響を大きく受けている森林もあれば、原生林のように人為活動の影響をほとんど受けてこなかった森林もあります。このように、これまでに受けてきた人間の活動の種類によって森林はグループ分けする事が出来ます。

どのようなグループの森林であっても,その中に入ると枯れ木や根から倒れた木(枯死木)を必ず目にすると思います(図1)。植物を愛する人たちでも、枯死木には目をとめることもないかもしれません。しかし枯死木は、植物や昆虫、蘚苔類、そして菌類など極めて多様な生物によって利用されています。枯死木に依存して生活している生物(以下、材上性生物)の種数は、ある推定では約100万種に及ぶとされています。ある一つの枯死木においてどのような種類の材上性生物がみられるかは枯死木の種類や大きさなどによって、ある森林においてどのような材上性生物がみられるかは森林の植生や森林内の枯死木の量などによって、それぞれ影響を受けていると考えられています。それでは、人間の活動と材上性生物はどのような関係になっているのでしょうか。日本と東南アジアで、材上性生物の代表として大型の菌類のグループの一つである多孔菌類(いわゆるサルノコシカケ類:図2)の多様性と種構成を比較してみました。


図1)倒木の例。この木は根から倒れ,菌やコケなどに利用されている。北茨城市のブナ林にて撮影



図2)多孔菌類の例(Ganoderma australeの子実体)。子実体(キノコ)の裏に細かな孔が多数空いているため多孔菌類と呼ばれる。いわゆるサルノコシカケ類。ランビルヒルズ国立公園(マレーシア)にて撮影。


北茨城のスギ人工林とブナなどの広葉樹で構成された天然林(自然に成立した森林)で調査を行いました。その結果、ブナなどの天然林の方がスギ人工林よりも種数が高いことがわかりました(図3)。また、天然林と人工林では多孔菌類の種構成は異なっており、天然林では広葉樹の枯死木に、人工林では針葉樹の枯死木を好む種類が多く出現していました。同じように、タイ、ベトナム、マレーシアで、アカシア人工林とそこに近接する天然林で調査を行いました。その結果、アカシア人工林と天然林の間では種数の差は調査地によって異なり、人工林で高い場合も天然林で高い場合もある事がわかりました。一方、種構成については、天然林と人工林で大きく異なりました。このように、枯死木を利用する菌類の種構成や種多様性が人間の活動の種類によって変化することが示されました。



図3)広葉樹天然林とスギ人工林における,森林が成立してからの経過年数と種数の関係。同じ年数で比べると,常に広葉樹天然林で種数が高かった。

 森林に対する人間の活動の目的は、材生産であったりレクリエーションであったりと、直接的に枯死木の量や質(樹木の種類や枯死後の経過時間)をコントロールしようとすることが目的となる場合はそう多くはないでしょう。北欧諸国では長年の林業活動により、多くの材上性生物が絶滅の恐れがある状態に追い込まれてしまっており、適切な枯死木の量と質を維持するよう配慮した森林管理が議論されるようになってきました。枯死木は材上性生物の多様性の維持だけでなく、薪や炭として利用されたり、炭素貯留による気候の緩和を期待されたりと、人々の生活にも役立っています。今回調査した日本や東南アジアでも、様々な枯死木の役割が期待されていますが、これらの役割はすべて同時に果たされるとは限りません。今後は、森林管理による材上性生物相の変化がどのような変化を枯死木の分解過程にもたらすのかを評価していきたいと思います。

文責 山下 聡(森林総合研究所)

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