陸水チームより (2013年1月)

純淡水魚類の多様性の変化を探る

皆さんは、「タナゴ」という魚をご存知でしょうか。名前だけは聞いたことがある方も多いと思います。タナゴの仲間は、とても小さく綺麗な魚で、関東地方では、古くから釣りの対象として愛されてきました。1mにも満たない短竿をわざわざ小継ぎにする独特の釣法で、繊細なアタリを感じとって一匹ずつ釣りあげて楽しむのが江戸っ子の粋とされていたそうです。しかし、今日では、タナゴの種数や個体数は急速に減少しており、日本在来のタナゴ14種のうち、13種が環境省レッドリストにおいて絶滅危惧種あるいは準絶滅危惧種に指定されています。このままでは、タナゴ釣りという文化的サービス*1も失われてしまうかもしれません。

タナゴだけではなく、日本在来の純淡水魚類(*2)の多くは、生息場所の減少・劣化や魚食性外来魚の侵入など人間活動に起因する生態系改変の結果、絶滅危惧種が増加しています。2007年に改訂された汽水・淡水魚類レッドリストでは、45種の純淡水魚類が選定されており、その数は、2003年版の約2倍になっています。このような危機的な状況は、日本だけのものではなく、世界各地で純淡水魚の絶滅が危惧されています。

私たちのグループでは、日本中の湖沼の過去約50年間を対象に、魚類相を記録した論文や報告書、さらに博物館などで収集されてきた標本データを網羅的に収集し、在来の純淡水魚類の種数の変化(国内移入魚は含めない)について解析を進めています。これまでに、40湖沼おいて、魚類相に関するデータを収集することができました。

現在(2000年以降と定義)の湖あたりの確認種数は、潜在的な種数(過去に一度でも出現した種の総数)と比較した結果、平均で約30%の種が消失していることがわかりました(図1)。メダカ、ゼニタナゴ、ヤリタナゴ(写真1)、アブラハヤ、ドンコ、シマドジョウ、タナゴなどは、5つ以上の湖沼で消失が確認されました。

 

図1:記録された40湖沼における純淡水魚類の種数の変化


しかし、湖沼に流入する河川や水路などの魚類相のデータを収集し、解析に含めると消失率は23%となり、種数の減少は若干緩和される結果となりました(図1)。メダカなど一部の種は、湖内から消えてしまった場合でも、流入河川や水路にまだ残存していることがわかってきました。湖沼の純淡水魚類の保全には、周辺の河川・水路・休耕田なども対象に含め、氾濫原湿地として保全・再生する枠組みや対策が有効であるといえます。



 写真1:複数の湖沼で消失が確認されたヤリタナゴ(Tanakia lanceolata)。環境省レッドリストでは、準絶滅危惧種に指定されている。(写真撮影:松崎、三方湖にて撮影)

今後は、収集したデータをもとに、絶滅しやすい種の特徴や絶滅に関係する要因の解析を進めるとともに、効果的な保全策(特に優先的保全すべき湖沼の選択)を提言することを目指していきます。

  文責 松崎慎一郎(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)


*1 人間社会が生態系からうける様々な喜びや楽しみ、精神的な充足などの恩恵、生態系サービス(自然の恵み)の一つ。

*2 一生を淡水で過ごす魚をさす。サケ科やハゼ科など回遊する魚は含めない。


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